理系の料理第1章 1節目「塩・胡椒:適量」ってどういうこと?の部分の全文テキストを公開します。
「はじめに」と合わせて、書籍はだいたい全体的にこんな感じのものなんだな、ってイメージをつかんでいただけるんではないかと思います。
「塩・胡椒:適量」ってどういうこと?
料理を始めたばかりの頃、私がもっとも悩んだのは、こんな感じの「客観的なパラメーター」が書かれていないレシピ達でした。
・塩、胡椒を適量
・お好みでトウガラシを入れる
料理が「わからない」ころは、「これがわからないからレシピを見てるんだけど」なんてことを何度も思いました。「適量」なんて書かれたものを「レシピ」と呼んでいいのか、と、本当に心の底から疑問で仕方ありませんでした。
当時の私に当然適量なんてものがわかるはずがなく、しょうがないから塩を1g入れてみる。で、実際にやってみても、1g入れて果たして味が変わったのかどうかを計測する手段がない。
もちろん、塩1g程度で味が変わったかどうかは、私のような素人の味見程度では「違い」がわかるようなものではありません。
1gでの変化がわからないなら、次は「塩小さじ1くらい?」
今度は小さじ1では量が多すぎ、塩辛くて食べられたものではない味付けになってしまったり…こういった「適量」がわからない失敗を10回くらい繰り返した頃でしょうか。はじめて「適量」という言葉が私の中で納得できる言葉になりました。
実はこの「適量」って、本質的には自分も無意識に「できてた」ことなんです。
例えば、トンカツを食べるときにかけるソース。あるいは、卵かけご飯にかける醤油。これらに関して「どのくらいの分量かけてる?」って聞かれても、「なんとなく」としか答えられない自分がいました(そう、感覚派の妻がよく口にしたフレーズです)。
そして、レシピに書かれてる「塩・胡椒:適量」という表現も、実はこれと「一緒」のことだったんです。
違いは「食べる直前にかけるかどうか」という点と「かけた分量が目で見て分かりやすいかどうか」という点だけ。「料理ができる人」にとっては、「塩・胡椒:適量」という表現は「トンカツソースは自分でかけてね(味付けの濃い・薄いは好みが分かれるだろうから)」というのと本質的には「同じ意味」のことみたいなんです。塩・胡椒で味の濃い・薄いを調整できるから、「自分の好み」に調整してね、と。
知識から「感覚」を身につけていく
「卵かけ御飯に醤油をかける」というのは「私でも感覚的にわかること」です。私には料理の感覚、みたいなものは全然ないかと思っていたんですが、実はこれだってレベルは低くても立派な「料理のセンス」。
「塩・胡椒:適量」という私の中で全く理解できない用語も「最後に塩・胡椒を入れるだけである程度味の濃い・薄いの調整ができる」と「翻訳」してやれば、実は「卵かけ御飯に醤油をかける」と同じことだということがわかるようになりました。
そしてそれがわかれば、適量という分量についても「このくらいなのかな」と少しだけ「感覚」で考えることもできるんじゃないのか、と思えるようにもなってきました。
料理を覚えていく最初の段階で重要なのは、こういう「自分が知ってる感覚」と「料理の感覚」を繋げていくことなのではないかと思います。そして、その感覚を繋げるときに大きな助けになってくれるのが「最後の塩・胡椒は濃い・薄いの調整だ」という本質的な料理知識をいくつか覚えること。
料理の感覚を身につけるには計測が欠かせない
こういう感覚を身につけるときに大いに役に立つのが「パラメーター」を意識してやることです。料理を作る際に「1グラム」なんていう単位だったり「強火で1分間焼く」などの客観的な「数字」を意識して料理を作ってみるんです。
例えばレシピに「塩・胡椒:適量」と書かれていて、それぞれ5グラム入れてみたら味が濃すぎた――なんてことがわかれば、次回はそれよりも少なめにすれば「適量」に一歩近づくことができ、少し「料理の感覚」が上達します。また、塩5グラムを一度自分で量ってみることで「5グラムは見た目でこのくらいの量」とわかり、「分量を目測で測る」という「料理の感覚」を身につけられます。
私の妻には「めんどくさいこと」でしょうが、私のような「料理の感覚がない人間」にとっては、こうやって「計測できるものはきちんと計測する」という行為が、遠回りに見えて一番早く料理の感覚をつかめる手段だったのです。
まとめ
- 「塩・胡椒:適量」は、「トンカツソースはお好みでどうぞ」というのと本質的には「同じ意味」だった
- 料理を覚えていく最初の段階で重要なのは、「自分が知ってる感覚」と「料理の感覚」を繋げていくこと
- 料理の感覚を身につけていくときには、客観的な「数字」を意識して料理を作ってみるのが近道
「はじめに」はこちらから
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編集者へのインタビュー
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