今回は『アトミック・シンキング』に書ききれなかったけど、わりと自分でも面白いと思ってる「たとえ話」の供養記事です。このたとえ話は、すでにナレッジスタックの中で公開しているものです。
アトミックなノートを組み合わせて本を書く – by goryugo – ナレッジスタック
きっかけは、『アトミック・シンキング』の原稿下読みをお願いしたときに、この話がとても印象に残っていたという感想をいただいたことでした。
このたとえ話、自分でも面白いと思って本でも使おうと思っていたくせに、一通り本を書き終えて感想をもらうまで存在を完全に忘れていたのです。
改めて本の中に内容を反映させることも考えたんですが、読み返してみるとこれは『アトミック・シンキング』の次の段階とも言える内容でした。ある意味で「アトミック・執筆術」の第一歩とも言えそうなテーマです。
原子を組み合わせて分子を作り上げる
『アトミック・シンキング』の最終第3部では、「トピックノート」という概念を紹介した。だが、そこで紹介したトピックノートの活用方法は、まだ「基本レベル」である。
トピックノートは、アトミックノートやトピックノートを「集める」「分ける」ことによって思考を整理するノート。ここまでが『アトミック・シンキング』で触れたトピックノートの使い道である。
次の段階のトピックノートでは、整理された思考の活用を考えていく。この段階では、ノートを意識的に「順番につなげていく」ことを試みる。
そこで考えたいのが「分子」という概念。アトミック・ノートが「原子」のノートとすれば、トピックノートは原子が集まってできる「分子」のノートなのである。
分子のノートでは「順番」が非常に大切になる。
少し化学の話をしよう。世の中に存在する分子は、全く同じ原子で構成されるものでも、組み合わせ、構造が異なるだけでまったく性質が異なるものが存在する。
「メタノール」と「エタノール」などは有名な例の一つ。
メタノールは消毒液ではありません。消毒用アルコールは「エタノール」です。消毒用にメタノールを買わないように。
消毒用アルコールが不足した時期には、こんなことがよく話題になっていた。書いていて自分でも混乱してくる程度には名前も紛らわしいが、この2つの分子はどちらも「同じ原子」で構成された、アルコール類に属する分子だ。
「メタノール」と「エタノール」という2種の(常温常圧下での)無色透明の液体は、どちらも「炭素原子」「水素原子」「酸素原子」の3種類の原子で構成される分子だが、自然界での性質は大きく異なる。
メタノールは主にアルコールのランプの燃料として使われる人体に有毒な化学物質で、戦後に闇酒として飲まれ、失明者が多数出たり、世界各国でも似たような「事件」が多数発生している、人体に非常に強い毒性を持つ物質。
それに対して、エタノールはいわゆる「お酒」に入っているアルコール。本質的にはこれも人体に対しては「毒」なのだが、人間はこれを飲むと「酔っぱらう」という性質を持つ。飲用以外で、先ほどの消毒などの用途にも用いられる。
マンガ『マイホームヒーロー(17)』では、主人公がハッタリとしてエタノールをメタノールと見せかけ、相手を罠にかけるシーンにも使われていた。このように、エタノールとメタノールは見た目や匂いでは判断ができないというのも非常に紛らわしい。
そもそも、なぜこのようなわずかな分子構造の違いが人体に対してここまで異なる影響を及ぼすのか、なども学ぶと非常に興味深いのだが、そこまで踏み込むのは余談が過ぎるので脇に措いておこう。
この文脈で伝えたいのは「同じトピックノートでも、ノートを組み合わせる順番が変われば伝わる内容が大きく異なる」可能性があるということだ。
以下のリストは『アトミック・シンキング』の第一部の目次であるが、これは「順番にこだわって作ったトピックノート」という見方もできる。
- アトミック・シンキングは「書いて考える」思考の整理法
- 書くことを通じて思考を拡張する第二の脳を作る
- アトミック・シンキングはあらゆるスキルの土台となるスキル
- 書いて考えることを習慣にする
- 書くことができないのは経験が足りないだけ
- 複雑なことは分解してひとつひとつ覚えていく
- 頭の中のもやもやを文字にするフリーライティング
- 毎日の出来事を文章にした日記を書く
- 日記では事実とそれ以外を分ける
- 鍵があると本の内容を思い出せる
- 自分が面白いと思ったことを自分のことばでまとめる「読書メモ」
- 三つの練習のそれぞれの目的をきちんと理解する
- コピペしないで必ず自分のことばで書く
- 失敗したか考えず「またやればいい」という気持ちを持つ
- 一つ一つの文章やノートを丁寧に扱う
トピックのテーマは「アトミック・シンキングと書くこと」
目次からリンクされるノートは「アトミック・ノート」ではないが、どれも「アトミック・ノート」の要素をいくつか組み合わせて書いた「分子」のような文章。
そして、この「分子」のような性質を持った文章を複数集めて並べることで、タンパク質のような「高分子のノート」ができあがり、複数のタンパク質が組み合わさって「1人の人間≒1冊の本」が完成する。1
順番を意識したトピックノート
まだ「アトミック・執筆術」的なものは練り上げが足りず、たとえ話にも隙は多いが、重要になるのは「順番」だということに関しては確信が持ててきた。
Zettelkastenで「インデックスノート」「構造ノート」などと呼ばれているノートは、この「順番を意識したトピックノート」と似たようなものだと考えている。
あんまり名前がかっこよくないが、ひとまず「順番を意識したトピックノート」のことを「分子ノート」と仮の名前をつけておく。
このような記事を書くときにも「分子ノート」を作ると、実際に記事を書く際にスムーズに進むことが多い。これまでナレッジスタックで書いてきたものは、半分くらいが「分子ノート由来」で、半分くらいは「アウトラインから書いたりぶっつけ本番で書いていったりした」というイメージだが、分子ノート由来の記事は、とにかくスムーズに書けて、使う時間もエネルギーも少なくて済む。
「ノートを並べるだけで完成する」なんてことは決してないが、それでもやはり「執筆が大きく楽になる」ことはほぼ間違いないと言える。
こういうノートを、いつ、どうやって作るかなども含めて、まだまだこの部分は手探りなことが多い。この辺りの手順、方法などは、これからも随時ナレッジスタックの中で考えていく予定。
この記事は、ニュースレター「ナレッジスタック」に書いたものを編集し、まとめ直したものです。ニュースレターは以下から登録いただけます。
- ここは、化学的な意味で比喩として正しくない。どちらかというと1冊の本は自己相似な「フラクタル」的な構造とも考えているが、たとえと実践例はこれから練り上げる予定。 ↩︎