読書メモは、「書いて考える」ためのもっとも効果的な練習方法であり、アトミック・シンキングの「総仕上げ」とも言える重要なステップです。
ここまで、私たちは大きく2つの練習をしてきました。
一つは「食べたものについて書く」練習。これは、事実を観察し、記録する訓練でした。
もう一つは「フリーライティング」の練習。これは、頭の中に渦巻く思考や感情という、形のないものを文字にする訓練でした。
読書メモは、この2つの要素を統合し、さらに高い次元へと昇華させる応用編と呼べる内容です。
このステップをマスターすることで、あなたは本当の意味で「考える技術」を手に入れることができるようになります。
### なぜ読書メモが「総仕上げ」なのか
ここまでずっと「簡単な練習」ばかりしてきたのは、読書メモを作るという行為が、本当に高度で難しいことだからです。
読書メモは「外部の事実(本の内容)」と「内部の思考(自分の反応)」の両方を同時に扱わなければなりません。
食事記録のように、目の前にある事実を正確に捉える観察眼と、同時に、フリーライティングのように、自分の内面から湧き上がる思考を言語化する表現力も必要とされます。どちらか片方だけでは、アトミック・シンキングの思想にのっとった「よい読書メモ」は作れません。
本の引用はただの「コピー」であり、コピーを繰り返しても、あなたのことばで語ることができるようにはなりません。
だからといって「感想」を書くだけでは、本の内容があなたにインストールされることもありません。
アトミック・シンキングは、この両方がよいバランスで「残る」メモを作ることは目指します。目標は、本の内容を理解し、身体知として応用できるようにすることです。
他者(著者)の思考をきちんと取り入れて、自分自身の思考にインストールすること。
この練習手段として、読書メモが考えうる限り最高の手法なのです。
### いきなり「思考」を書こうとしない
さて、ここからはそのことを前提とした上で、どんな風に読書メモを残すのかを考えていきます。
実は、多くの人は「内容」以前に「継続」「行動」で苦労しています。
その理由は結局「難しい」から。これは単純に時間がないということも理由になるし、認知の負荷が高いということも理由になります。
しかしなによりもそれ以前に「効果的な方法がよくわからない」ということもあるでしょう。
多くの人が読書メモで挫折するのは、「本を読んでどう思ったか」という思考の部分を、いきなり書こうとするからです。
しかし、ここで思い出してください。
アトミック・シンキングの最初のステップは、「事実の観察」でした。
思考とは、事実という土台の上で初めて成り立つものです。「見ていないもの」について考えることはできません。
だからこそ、読書メモにおいても、まずは「事実から始める」ことが鉄則です。
結局「同時に2つのことは出来ない」んです。
自分の感想や意見を書く前に、まずは「著者は何と言っているのか」「本には何が書かれているのか」という事実を、正確に捉えることから始めなければなりません。
### 本という「補助線」の価値
また、ここまで何度かフリーライティングを経験していれば、フリーライティングは行き詰まることがある、ということもよくわかるでしょう。
フリーライティングでは、自分の中にあることばしか出てきません。フリーライティングだけでは、どこまで頑張っても自分の思考の枠組みを超えることは難しいのです。
そこで読書の価値が生まれてくるわけです。読書は「他者との対話」なので、自分一人では生まれてこないことばが見つかります。
自分とは異なる背景、異なる知識、異なる論理の思考が見えてきます。
著者の言葉(事実)というものは、あなたの思考を触発する強力な助けになるのです。
結局、「何を書けばいいかわからない」という状態に陥ったときにすべきことはまず「事実を書く」ことなのです。
その事実をきっかけに、自分一人の力では決して到達できなかった思考の場所へ連れて行ってくれるのが読書です。
### 「わからないこと」を扱う難しさ
これまでの練習(食事記録、フリーライティング)と、読書メモの最大の違いをまとめると、読書メモは「わからないことを扱う」ということだと言えるでしょう。
食事の内容や、自分の感情は、ある程度「わかっていること」です。
しかし、新しい本を読むということは、未知の世界に触れるということです。そこには必ず「わからないこと」が含まれています。
読書メモを書くということは、その「わからないこと」に向き合い、言葉にし、わかるようにしていくプロセスそのものです。
これは非常に高度で、脳に負荷のかかる作業です。
だからこそ、難しいと感じることは当たり前。それをきちんと知っておくことです。
もし「書けない」と悩んだら、それはあなたの能力が足りないわけではありません。あなたが今、アトミック・シンキングの最も核心的で、最も困難な「理解の獲得」というプロセスに挑んでいる証拠なのです。
### 焦らず、事実から積み上げる
重要なのは、焦らないことです。
いきなり完璧な考察や、鋭いタイトルをひねり出そうとする必要はありません。
まずは、目の前にある「事実」を見ること。
著者が紡いだ言葉、構成された章立て、強調されたメッセージ。それらを丁寧に観察し、記録することから始めてください。
思考は、その積み重ねの上に自然と降りてくるものです。
まずは観察者になりましょう。書くことは、考えることの結果ではなく、考えるための始まりなのですから。