パッドでジャズのボイシングを覚える:全キーで同じ形を使う

R+5と3+7から始めて、ルートレス、トップ音での整理、テンション、4度進行へ。4度クロマチック配列のパッドでジャズのボイシングを覚えていく順番と、覚える量がどこで減るのかの解説。

ジャズのボイシングの教材は、たいていピアノを前提にしています。ピアノは調が変わるたびに運指が変わる楽器です。その前提のまま進んだ先には、コードの構成音を覚えたあとに運指を12キー分覚え直す作業が残ります。構成音は言えるのに手が動かない、という状態です。

残った12キー分は、楽器の設計から来ています。パッドを4度クロマチックで並べると、覚える対象が「キーの数×コードの種類」から「形の数」に変わる。形は数えられるくらいしかない。

⭕64パッドを楽器として使う:まとめでは「R+5」「3+7」の組み合わせを最初に覚えるものとして挙げました。ここでは、その次に何を覚えるのかを順番に並べます。


同じ形が12キーで使えるのはなぜか

パッドの4度クロマチック配列は、隣の列が必ず4度上になるように音を並べる設定です。この並びでは、音程の間隔と指の距離が盤面のどこでも同じ対応です。C から見た完全5度も、B から見た完全5度も、手の上では同じ距離。だからコードの形をひとつ覚えれば、それを横にずらすだけで12キー全部に持っていけます。

覚えるものが音名から音程の形に変わります。頭の中で「Fの3度は何か」を引くのをやめて、手が形を掴む。

4度という間隔の選び方にも理由があります。指が無理なく届く距離と、和音として意味のある音程が、同じ場所に来る。ストレッチを避けた運指のまま、4度堆積の和音やクォータルハーモニーが自然に弾けます。速く弾くための並びと、音楽的に正しい並びが、同じひとつの並びになっている。ここが4度チューニングの一番いいところです。


ピアノで12キー弾けないのは練習不足ではない

ピアノは白鍵がCメジャーの音、黒鍵がシャープとフラットという並びになっています。これはCメジャーだけを指で直感的に弾ける形にした設計で、12キーを対称に扱う設計ではありません。音楽理論の出発点では半音は半音でしかなく、12キーに優劣はない。

代償は他の11キーに出ます。白鍵と黒鍵の組み合わせが調ごとに変わるので、調が変わるたびに別の運指を覚え直すことになる。Cメジャーで指がスルッと動くフレーズが、E♭メジャーやF♯メジャーでは全く別の手の形になります。12キー分を身体に入れるには年単位かかります。

弾けないのは、練習が足りないからではありません。Cメジャーに特化した設計の代償です。


出発点は「R+5」と「3+7」

4和音を4つの音として1個ずつ拾っていると、演奏の速度に間に合いません。「R+5」と「3+7」の2組に分けて見れば、追いかけるものが2つで済みます。

コードの種類は、結局この「3度と7度の組み合わせ」で決まります。長3度とM7ならメジャー7th、長3度とm7ならドミナント7th、短3度とm7ならマイナー7th。R+5は種類が変わっても動かない部分で、3+7が種類を決める部分。この2組をどう動かすかだけで、メジャーもマイナーもドミナントも出てきます。

ドミナント7thの3度と7度の間はトライトーン(半音6個分)で、これがパッドの上では斜め一直線に並びます。縦に1段上がると4度、つまり半音5個。横に1マス右へ行くと半音1個。足して半音6個になるので、「縦1つ上、横1つ右」がそのままトライトーンです。同じ斜め線の上に、C、F♯、C、F♯と増4度が等間隔で並びます。理論では「悪魔の音程」と呼ばれる不安定の極みが、盤面では一番きれいな対角線として出てくる。

ここには一ヶ月以上かけていい。この先のルートレスもテンションも、4和音が考えずに掴める状態を前提にして積み上がるからです。指の反射に頼らずに弾けるのは、この形が見えているからで、ここで作った見え方が後の応用を全部楽にします。


ルートレスはトライアドとして覚える

ルートレスボイシングを、その場で音を1個ずつ積み直して組み立てていたら遅すぎます。Cm7のルートレスなら、「C から見た E♭ のメジャートライアド」としてまるごと覚えてしまう。トライアドはもう知っている形です。それがそのまま使えるので、頭の中で組み立てる手間が消えます。

4和音を「ルート+上部トライアド」の重なりとして見る、という捉え方の応用です。ここでも新しく覚えるのはトライアドの位置関係ひとつで、キーの数だけ増えるということが起きません。


形の数を増やさずトップ音で整理する

いろんなボイシングを使えるようにしたいとき、形を無数に覚えていくのは効率が悪いやり方です。数だけ増えても手は動きません。

トップ音とポジションで整理しておく。そうしておけば、覚えた形の集合が「その場面でどれを出すか」の判断に使えて、進行の途中で必要な形に手が届きます。


テンションはひとつずつ足す

9thも11thも13thもあって、maj7からm7まで種類もある。並べて眺めると量に圧倒されますが、テンションコードは一個ずつ覚えれば足ります。

まず maj7(9) を覚える。1個覚えるのに1週間2週間かけたとしても、1年以内に一通り終わる勘定です。「R+5」と「3+7」の2組で見る発想がここでも通じていて、テンションは確定した形に1つ足すだけの対象として扱えます。

集中して10分、テンションコードだけを弾く。練習メニューとしてはそれで足りる粒度です。


覚えた形は上下左右どこへでも動かせる

コンスタントストラクチャーは、同じボイシングの形を保ったまま平行に動かしていく和音の使い方です。Herbie Hancock や Chick Corea が多用する技法で、鍵盤では白鍵と黒鍵の並びのせいでキーごとに運指が変わるため、やろうとすると難しい。パッドでは形をひとつ覚えて、横にずらすだけで済みます。

同じことが縦にも起きます。8x8の格子は縦も横も4度間隔がそろっているので、ボイシングの形を縦に動かせば、同じ和音が音域だけ変わって鳴る。ギターだと横(フレット方向)にコードフォームをずらせばキーは変わりますが、縦にずらすことはできません(6弦しかない幅とG-B間の3度で同じ形にならない)。パッドは4方向どこへでも持っていけます。


4度進行なら手はほとんど動かない

4度進行には、R+5をそのまま残して5度を半音下げるだけで次のコードになる、という最小の動きのパターンがあります。手をほとんど動かさずにコードを進められるので、腕の重さを乗せたフォームのまま弾き続けられる。力んで押し込む場面が出てきません。

転回形にも同じ発想が通じます。CからGに移るとき、基本形のまま弾くと手が大きく動く。Gの転回形(レソシの並び)を選べば、Cの音域から近いところにGの構成音が見つかります。指の移動が減って、フレーズが滑らかにつながる。

これはボイスリーディングと呼ばれる考え方です。転回形は押さえ方のバリエーションではなく、次のコードへの最短経路。

練習メニューにするなら、トニックからサブドミナントへの4度進行で、テンションを含んだボイシングを行き来する形です。maj7(9)でAフォームとBフォームを滑らかに往復する。最小限の運指で豊かな響きを出すやり方が手に入って、実戦のコードワークの大半はこれでまかなえます。


覚える対象の一覧

ここまでに出てきた覚える対象を並べると、こうなります。

キーの数はどこにも掛かっていません。パッドの等尺配列でジャズのボイシングを覚えるというのは、この数個を順番に手へ入れていく作業で、終わりの見える量です。


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