スタンダード曲を1曲覚える:1曲決めて毎日の練習を組み立てる

ジャズスタンダードを1曲決めて覚えきると、その曲を使ってメロディ・コード・進行を練習できます。覚え方の順番、覚えた曲で何を練習するか、曲が増えたあと新しい曲を差分だけで覚えるところまで。

スケールは一通り覚えた。コードの押さえ方も知っているし、理論書も読んだ。それでも楽器の前に座ると、今日は何を練習するかで手が止まります。今日はスケール、明日はコードトーン、その次は見つけた教則動画。どれも中途半端なまま、次の日にはまた別のことをやります。

足りないのは技術ではなく、練習の材料です。スタンダード曲を1曲決めて覚えきれば、この材料が一度にそろいます。メロディをどう弾くか、コードをどう押さえるか、進行のどこで手が止まるか。覚えた曲の中に、次にやることが全部入っています。

丸暗記はつまらないし応用も利かない、という抵抗はもっともです。ただ、ここで言う覚えるは、譜面を思い出せる状態を指していません。


曲を1曲決めて、覚えるつもりで弾く

弾けたら次の曲へ、という進み方だと、弾いた曲は身につかないままです。最初から覚える対象として向き合えば、同じ時間をかけても残り方が変わります。譜面を見ながら通せる状態と、譜面を閉じても弾ける状態は違います。

覚えられないという悩みは、たいてい記憶力よりも回数で説明がつきます。千回弾けば、ほとんどの曲は考えずに弾けます。覚えられないと言う人の実際の回数は、覚えた人の何十分の一しかありません。記憶術を探すより、千回弾ける環境と動機を先に用意した方が早く進みます。

1曲だけにするのも、同じ理由です。10曲を並行して触れば、1曲あたりの回数は10分の1に減ります。

進行の途中で今どこにいるか分からなくなるときは、理論の知識より先に、覚えきれているかを疑います。指の動きだけで進んでいる状態は、一度崩れると復帰できません。構造を把握して弾けていれば、途中で落ちても形から思い出せます。


譜面を塊に分けて、度数で歌いながら弾く

覚え方には順番があります。頭から順に音を並べて覚えていく方法は、曲が長くなるほど途中で崩れがちです。AABAのA、サビの4小節、繰り返しの部分。セクションや機能の塊に分けて、塊ごとに覚えます。塊で持っておけば、途中で止まっても直前の塊から入り直せます。一度そうやって分けた譜面は、あとから何度でも取り出せます。

弾くときは度数を声に出します。

スケールを弾きながら「1、3、5」と言っていけば、指の位置と耳に入る音程と度数の名前が一度に結びつきます。黙って弾いている限り、この三つは別々のままです。テンポも迷わず弾ける速さまで落とします。10分練習のような短い時間でも中身が濃くなるのは、声に出すことと遅く弾くことを一緒にやったときです。

メロディを音名ではなく度数で歌えるようになると、耳で捉えた動きを別のキーへそのまま持っていけます。指板の別の場所へずらすときも同じです。音名に縛られた覚え方だと、キーが変わるたびに覚え直しになります。

パッドのように配列が均等な楽器では、速く弾く前にどこを押すかを目で覚えておきます。位置が見えていない状態で速度を上げると、覚えるのは間違った動きの方です。

速い曲には、覚えた後にもう一段階あります。音の並びを記憶できても、指がその速さで再現できるとは限りません。覚えることと、その速さで弾けることは分けて考えます。テンポを大きく落として、指が追いつく速さから反復します。曲が覚えられないと勘違いしたまま同じ速さで弾き続けても、この段階は進みません。


覚えた曲でコードを2組に分けて押さえる

覚えた曲は、そのまま練習の材料です。コードネームを見るたびに押さえ方を探しているうちは、演奏の判断がそこで止まります。見た瞬間に構成音が浮かべば、探す手間はいりません。

4和音を4つの音として1個ずつ拾っていると、テンポの中では間に合いません。「R+5」と「3+7」の2組に分けて見れば、追うものが2つで済みます。音程が均等に並ぶパッドなら、どのキーでも形は変わりません。🎹パッドでジャズのボイシングを覚えるに並べた順で2組の動かし方を足していけば、メジャーもマイナーもドミナントも作れます。

覚えた曲の上なら、この見方をすぐ確かめられます。枯葉(Autumn Leaves)のAセクションの頭は Cm7 → F7 → B♭M7 です。3+7 の組だけを追いかけると、E♭とB♭、AとE♭、DとA。片方は前のコードの音がそのまま残り、もう片方が半音下がるだけです。構成音を1個ずつ数えているうちは、この動きに気づけません。

耳の側からも同じ2組が使えます。

和音全体を一度に当てにいくより、ルートを手がかりにして3度と7度を歌う方が掴めます。基準の響きがないと、テンションの入った和音は聴き分けられません。Cm7、F7、B♭M7 の3つを、基本形(クローズド・ヴォイシング)のまま順番に鳴らします。同じ響きを何度も聴くうちに、聞き分けられる細かさが変わっていきます。

転回形を「押さえ方が増えるから覚える」と説明されても、使いどころが見えてきません。この3つをどれもルートから順に重ねた基本形で弾くと、コードが変わるたびに手が大きく動きます。F7 を下から C・E♭・F・A の並びに置き換えれば、Cm7 の形から指を2本動かすだけで届きます。転回形は、次のコードへの近道として使います。


覚えたメロディをソロの材料として使う

スタンダードのメロディは、歌として脇に置いておくにはもったいない材料です。コード進行に沿った音の運びとして分解すれば、そのままアルペジオの練習台になります。ジャズではメロディそのものが即興のモチーフとして通用していて、ソロの途中で曲の断片を引用するのもよく行われます。

アルペジオを機械的に並べる練習は、たいてい続きません。感覚だけで弾けば偏ります。

スタンダード曲を素材にすれば、きれいなメロディを覚えることと、メロディックなアルペジオを弾くことを一度にやれます。コード進行も同時に覚えられて、ドミナントのところでトライトーンサブを弾いてみる、といった応用も曲の上で試せます。

覚えたフレーズには操作を加えられます。逆行させる、音の間隔を変える、装飾を足す。こうした操作をデバイスと呼んで、ひとつずつ名前を付けて練習します。コピーの深め方のやり方で暗記したフレーズに操作を組み合わせれば、覚えた数より多くのバリエーションが弾けます。

リハーモナイズも同じです。コードを1つずつ差し替える形で覚えていては、演奏中に手が止まります。サブドミナントマイナーから半音で降りていく流れのように、ひとつながりのまま覚えておけば、呼び出すときに流れごと出てきます。


新しい曲は、知っている形との差分だけ覚える

1625(I - VIm7 - IIm7 - V7)は、ジャズでもブルースでも歌謡曲でも何度も出てきます。

あらゆるキーとヴォイシングで考えずに弾けるところまで持っていけば、見えるのは1と6と2と5という4つのコードではなく、1625というひとかたまりです。

そこから新しい曲の覚え方が変わります。サビは1625が2回、ここは2がII7に変わっただけ。知っている形との違いだけを見れば済みます。曲の中に同じ形を見つけてまとめれば、覚える量そのものが減ります。

即興で何も出てこないとき、練習量を増やす前にまだ減らせるのは、覚える量の方です。

機能の割合にも目安を置けます。『脳と音楽』という本によると、多くの曲でトニックとサブドミナントとドミナントは2対1対1くらいの比率に落ち着くそうです。この目安を頭に入れておけば、初めて見る譜面でもどこに時間を使うかの見当がつきます。

ある曲で覚えた同主調のバリエーションが別の曲の一箇所とまったく同じ形だと気づいて初めて、知っていただけだったものを自分の演奏で使えます。理論を先に全部覚えてから曲に向かう順番では、この瞬間が来ません。理論と曲の関係は音楽理論を味方にする学習術で扱っています。

コード進行の理屈が分かってくれば、コピーの意味も違ってきます。譜面どおりに弾けた段階では、まだ再現です。転回形の選び方、サビに向かうGを高い音域で弾くと盛り上がること。こうした判断が入った時点で、コピーは弾く人自身の演奏へ変わります。


1曲をひと月の練習材料にする

始まりは、2023年10月の枯葉でした。その後の練習履歴では、All of Me、Take The A Train、Fly Me to the Moon と曲が変わっています。1曲を軸にコードトーン、スケール、フレーズを練習して、ひと月を目安に次の曲へ移りました。

この方法は楽器を選びません。ギターならポジションを固定してメロディを弾く形になり(課題曲となるJazzスタンダードをベースに複数の項目を練習する)、64パッドなら押す場所を目で覚えます(⭕64パッドを楽器として使う:まとめ)。楽器が変わっても、1曲を覚えてそこから練習を組み立てる順番は同じです。練習全体の設計は🛤️ 練習論、即興だけを取り出した練習は即興演奏のために練習すべきことにまとめました。

今日はスケール、明日はコードトーン。毎日そこから決め直さずに済みます。覚えた1曲の中から、今日やる分を取り出します。

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